温故知新
レモン色のまち
映画館の思ひ出

水谷武生

(写真提供:辻写真館)
以前、諏訪公園の中に四日市幼稚園のあったことは、お話しました。諏訪公園と諏訪神社が、もっぱら私達の遊び場でした。

昭和31年9月4日
 アイスクリーム売り(諏訪公園にて)
この写真を見てください。辻さんが、公園南から藤棚を撮ったものです。これから上げるところなのか、大きなアドバルーンが並んでいます。季節は夏なのでしょう。自転車に乗ったアイスキャンディー屋さんがいます。当時は1本5円か10円だったと思います。上半分が黄色で下がピンクと、色素豊富なアイスキャンディーでした。口の中を真っ赤にしたり、黄色にしたりして、正ちゃんと大きな口をあけて笑いあったものです。手前両横を見てください。男の子が何か買っています。
2軒の出店(でみせ)がありました。
東が良いおばあさんの店、西側が悪いおばあさんの店。
良いおばあさんの店は、清潔そう(?)なのですが、悪いおばあさんの店は、保健所に睨まれそうな店でした。
けれども、悪いおばあさんの店の方が、魅力的な品物がたくさん並んでいました。
ここには、駄菓子屋の屋台が、常時出ていたのです。
お母ちゃんに10円もおて、正ちゃんや望野くんとここへ走ってきました。
「今日は何買おか?」
10円を5円に分けて、1本1円のくじを引きます。店舗横の汚いバケツに水が張ってあります。小さな紙の束から大事に1枚ずつちぎって、水の中に浮かべます。すると、白い字が浮かびます。
「スカ」、「スカ」、また「スカ」。
「なんや、当たらへんわ。スカばっかや。」
悪いおばあさんはにんまり。
「やった!最後の1枚が5等賞。」
おばあさんは、少し大きめのラムネ菓子を厚紙の板からはがして渡してくれます。
「あと5円でなに買お。」
隣のおばあさんの処へ3人は走ります。新聞紙で出来たお楽しみ袋は、店舗横にぶら下がっていました。1回5円。中に何が入っているのか?袋を揉みます。
揉んで揉んで、おばあさんに叱られるくらい揉んで、中のものを探ります。
僕が引いたのは「すいこん」でした。
「なんやこれ!」
「海へ泳ぎに行くとき股にするもんや。(笑)」
黒い三角の布の三方に、紐が繋がっています。「こんなもんで今日遊べやへん。」
出店には、いろんなものが売られていました。ビンに入ったあられは、1枚5円。
ガラスの管に入った赤いゼリー(ちゅーっと吸います)。

現在の諏訪公園
おばあさんが、新聞紙の上に袋を切って広げ黄な粉をかけてくれる、わらび餅。
しがむとニッキの味がする紙(漫画の描いてある厚紙です)。
「なんや、紙くっさー。」
なんて思っても文句は言いません。
3人は、お菓子を食べながら公園西のキリストさんの教会へ。 教会の中にある築山の広い庭は、僕たちの冒険心を十分満足させるものでした。
おしっこをこらえながら潜り込み、築山の上からはるか南を望むと、竜宮城のような建物が見えました。当時、後楽園と呼ばれていた赤線地帯でした。
あの日、僕が持って帰ったお楽しみ袋の「すいこん」は、その後、兄貴が使ったのか、おかあちゃんが頭にかぶったのか、その行方はわかりませんでした。
「明日、幼稚園から帰って10円もろたら、何つこたろか?」